Pi NetworkのKYCプロセスが新たな段階へ
Pi Networkが、KYC(Know Your Customer、本人確認)プロセスにおいて大きな進展を発表しました。AI(人工知能)を活用した新システムにより、これまで「暫定KYC」ステータスであった336万人以上のユーザーが、完全な認証プロセスを通過したことが報告されています。この記事では、この発表の具体的な内容と、Pi Networkがなぜこれほど厳格な本人確認にAIまで導入して取り組むのか、その背景にある理念と技術的な側面を深く掘り下げます。
要約元 公式ブログより

発表されたKYC進捗の具体的な数値
まず、今回の発表で示された具体的な数値と、それが何を意味するのかを整理します。これは、Pi Networkエコシステムの現在の規模と成熟度を測る上で重要な指標となります。
336万人の「暫定KYC」状態を解消
報告によると、AIを活用した新しいシステムプロセスが導入された結果、以下の進捗がありました。
- 合計で476万人の「暫定KYC」ステータスのユーザーが、完全なKYCを完了するための審査対象となった。
- そのうち、336万人以上がすでに追加のチェックを通過し、KYCを完全に完了した。
- KYCを完全に完了したユーザーのうち、約269万人がメインネットのブロックチェーンへの移行を完了している。
次なる対象:追加対応待ちの300万人
さらに、この新しいシステムプロセスによって認証が進む可能性のあるユーザーが、約300万人存在するとされています。これらのユーザーは、現在も「暫定KYC」のステータスにありますが、アプリ内で求められている追加の「生体認証(Liveness Checks)」を提出することで、審査プロセスが再開され、完全なKYC通過の対象となる可能性があります。
なぜKYCはこれほど厳格なのか? Pi Networkの「一人一アカウント」ポリシー
多くのユーザーが「なぜKYCがこんなに厳しいのか」「なぜ時間がかかるのか」という疑問を持っています。ここでは、Pi Networkが掲げる根本的なポリシーと、Web3プロジェクトにおけるKYCの重要性を解説します。
KYC(本人確認)とは何か?
KYCは「Know Your Customer(顧客を知る)」の略で、もともとは銀行などの金融機関が、マネーロンダリングやテロ資金供与を防ぐために顧客の身元を確認する手続きを指します。暗号資産の分野においても、多くのプロジェクトが不正利用の防止や各国の規制を遵守するために、このKYCプロセスを導入しています。
Pi Networkが目指す「公正なネットワーク」
Pi Networkが特に厳格なKYCを要求する背景には、「一人一アカウント (one account per person)」というプロジェクトの核となるポリシーがあります。
ネットワークの完全性と公正性を守り、正直で実在するパイオニア(ユーザー)に報いること。
この目的のため、Pi Networkは一人の人物が多数のアカウントを作成して不当にマイニングを行うこと(これは「シビル攻撃」とも呼ばれます)を厳しく禁じています。厳格なKYCは、すべての参加者が実在する唯一の個人であることを保証し、トークン分配の公正性を担保するための技術的な手段です。この信頼性の基盤こそが、Piが目指すWeb3エコシステムの将来的な価値を支えることになります。
「暫定KYC」とは何だったのか? AIが解決する課題
今回の発表の鍵である「暫定KYC」とはどのような状態だったのか、そしてAIがその解決にどう貢献したのかを考察します。
「暫定KYC (Tentative KYC)」の正体
「暫定KYC」とは、KYC申請を提出したものの、何らかの理由で自動承認システムや手動の検証者による確認が「保留」となっていた状態を指すと考えられます。具体的には、以下のようなケースが推察されます。
- 提出された本人確認書類の写真が不鮮明(光の反射、ピンボケなど)。
- 登録された名前と、書類上の名前に軽微な不一致がある。
- 初期の生体認証(Liveness Checks)がうまく認識されなかった。
これらの「判断が難しい」ケースが大量に蓄積し、多くのユーザーのプロセスが停滞する一因となっていました。
AIモデルと生体認証(Liveness Checks)の役割
今回導入された新システムは、「高度なAIモデル」を用いて、これらの保留ケースを大規模に再分析します。AIは、申請者が「実在する生身の人間であること」を、生体認証(顔の動きや表情を捉えるLiveness Checks)のデータから高度に検証します。同時に、提出された書類のデータと申請内容の真正性を照合し、従来は判断が難しかったケースを自動的かつ大規模に処理することを可能にしました。
メインネット移行への影響とユーザーがすべきこと
KYCの完了は、Pi Networkにおける最終目的の一つである「メインネット移行」への重要なステップです。これがエコシステム全体にどう影響し、ユーザーは次に何をすべきかを説明します。
メインネット移行の重要性
「メインネット」とは、テスト段階ではない「本番のブロックチェーンネットワーク」を意味します。KYCを通過した(実在が証明された)ユーザーだけが、これまでにマイニングしたPiを本番のメインネット上に移行させることができます。移行が完了して初めて、そのPiはPi NetworkのWeb3エコシステム内で、商品やサービスの決済、あるいは他のアプリケーションでの利用が可能になるとされています。
対象ユーザーへの呼びかけ
今回の発表を受け、ユーザーが確認すべき点は以下の通りです。
- すでにKYCを完全通過したユーザー: アプリ内の「メインネットチェックリスト」を確認し、すべてのステップを完了させてメインネットへの移行プロセスを進めることが推奨されます。
- 現在「暫定KYC」ステータスのユーザー: アプリを起動し、追加の生体認証の提出が求められていないかを確認する必要があります。これを提出することが、新システムによる再審査のトリガーとなります。
また、公式の発表では、積極的なマイニングやアプリの利用(エンゲージメント)が、KYCや移行を含むシステムプロセスの処理を促す可能性があることも示唆されています。
まとめ:AIによる認証強化が築くWeb3エコシステムの基盤
今回のPi NetworkによるKYCプロセスの大幅な進展は、単なるユーザー数の増加報告ではありません。それは、AIという最先端の技術を用いて、プロジェクトの根幹である「一人一人の実在する人間による公正なネットワーク」という理念を、技術的に担保しようとする強い意志の表れです。厳格で時に時間のかかるプロセスは、Piが目指すWeb3エコシステムの信頼性と安全性を守るための基盤であり、その健全な発展に不可欠なステップと言えるでしょう。

