Pi Networkは、世界中で数千万人のユーザーを持つとされる暗号資産プロジェクトですが、その真の目的は単にデジタル通貨を流通させることだけではありません。プロジェクトが最終的に目指しているのは、その通貨が実際に使われる、実用的なアプリケーション(ユーティリティ)が活発に動く「分散型エコシステム」の構築です。
では、その壮大なビジョンに向け、具体的にどのような進展があったのでしょうか。2025年6月下旬に開催された年次イベント「Pi2Day 2025」では、このエコシステム構築を加速させる2つの重要な新機能が発表されました。それが、「Pi App Studio」と「Ecosystem Directory Staking」です。
この記事では、これらの新機能が一体どのようなもので、Pi Networkの未来にとってどのような意味を持つのかを、専門的な知識がない方でも理解できるように分かりやすく解説します。
公式ブログの要約です。https://minepi.com/blog/pi2day-2025-recap/
注目すべき2つの柱:Pi App Studioとエコシステム・ステーキング
今回の発表の核心は、エコシステムを「創る力」と「育てる力」をコミュニティ(Pioneersと呼ばれる参加者)に提供する2つの新機能です。ここでは、それぞれがどのようなもので、どのような成果を早くも生んでいるのかを具体的に見ていきましょう。
1. Pi App Studio:誰もがアプリ開発者になれる「ノーコード」プラットフォーム
最初の柱は、アプリ開発の常識を覆す可能性を秘めた「Pi App Studio」です。これは、プログラミングの専門知識がなくても、アイデアさえあれば誰でも機能的なアプリを構築できる、AI支援型の「ノーコード」プラットフォームです。
「ノーコード」とは、まるでレゴブロックを組み合わせるように、あらかじめ用意された部品や機能を視覚的に操作して、アプリケーションを組み立てる開発手法を指します。これにより、技術的な壁が大幅に下がり、より多くの人々がアプリ開発に挑戦できるようになります。
公式発表によると、このPi App Studioのリリース後、既に7,600以上のチャットボットアプリと14,100以上のカスタムアプリが作成・公開され、延べ34,800人以上のユーザーがアプリ作成に取り組んだとされています。これは、開発のハードルを下げることで、草の根のイノベーションがいかに活発になるかを示す好例と言えるでしょう。
ただし、ここで非常に重要な注意点があります。Pi Networkは、これらのアプリの安全性や内容について、公式に次のように言及しています。
パイオニアは、Pi Networkが、いかなる理由や目的においても、Piブラウザを通じてアクセス可能なApp Studioアプリを検証、評価、支持、またはレビューしないこと、また過去にもしてこなかったことに注意すべきです。これらのアプリの使用はご自身の責任で行ってください。使用の際には十分な注意を払うことを強くお勧めします。
つまり、プラットフォームは提供するものの、そこで作られたアプリの品質や安全性は保証されていないため、利用する際はユーザー自身の判断が求められます。
2. Ecosystem Directory Staking:コミュニティが良質なアプリを推薦する新機能
第二の柱は、数多く生まれるアプリの中から、本当に価値のあるものを見つけ出し、支援するための仕組み、「Ecosystem Directory Staking」です。
一般的に、暗号資産の「ステーキング」は、トークンを預け入れて金銭的な報酬(利回り)を得る行為を指すことが多いですが、ここでの意味合いは異なります。Pi Networkにおけるステーキングは、自分が良いと思ったアプリに対してPiトークンを預け入れる(ステークする)ことで、そのアプリを「応援」し、エコシステム内での表示順位を引き上げるための投票のような仕組みです。
これにより、コミュニティ全体の意思が、どのアプリが注目されるべきかに直接反映されるようになります。発表によると、この機能を通じて、これまでに合計3,770万以上のPiがステーキングされ、16,700人以上のユーザーが1,450以上の異なるアプリを支援したとのことです。これは、コミュニティがエコシステムの質向上に積極的に関与していることを示す力強いデータです。
今回の発表が示すPiネットワークの「現在地」と「未来」
これら2つの機能は、単独で存在するものではありません。組み合わせることで、Piエコシステムの成長を加速させるための、巧みな好循環(フライホイール効果)を生み出すように設計されています。
その全体像は、以下のように整理できます。
- 創出(Supply): 「Pi App Studio」によって、誰でも簡単にアプリを開発し、供給できるようになる。
- 評価・選別(Curation): 供給された多数のアプリの中から、コミュニティが「Ecosystem Directory Staking」を通じて、良質で有望なアプリを「応援」し、可視性を高める。
- 成長(Growth): 注目されたアプリはより多くのユーザーを獲得し、成功事例が生まれる。それが新たな開発者を惹きつけ、さらに多様なアプリが創出される。
このサイクルは、Pi Networkのユーザーの役割が、単に毎日ボタンをタップする受動的な存在から、エコシステムを自らの手で能動的に構築し、価値を創造する「参加者」へと変化していることを明確に示しています。
まとめ:ユーティリティ創出に向けた具体的で力強い一歩
今回の「Pi2Day 2025」で発表された「Pi App Studio」と「Ecosystem Directory Staking」は、Pi Networkが最終目標として掲げる「ユーティリティ中心の分散型エコシステム」というビジョンを、ただの理想論ではなく、現実の形にするための具体的で力強い一歩です。
誰でもイノベーションの担い手になれる環境を提供し、その成果をコミュニティ自身が評価し、育てていく。この仕組みは、プロジェクトが中央集権的な管理から脱し、真にコミュニティ主導で成長していくための重要な基盤となるでしょう。
Pi Networkの動向に関心を持つ方は、こうした公式の発表内容を基に、プロジェクトがどのフェーズにあり、何を目指しているのかを冷静に評価することが重要です。より深い情報を求める場合は、公式サイトやホワイトペーパーを参照し、ご自身で判断することをお勧めします。

